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逃げてきた方を恐る恐る振り返る……その先に少女の姿はいなかった。透流はほっと安堵の息を漏らす。
とりあえず当面の危機は去ったが、はてさて一体これからどうするか……未だ不快感は続いているから本当の意味での安心は出来なかった。
透流は一番近くの桜の木の下で乱れた息を整えようと、全力疾走した体に鞭打って歩を進める。
ペタペタ……と、先ほど聞いたような音を耳にした。桜の木に手を当てたとほぼ同時に。
透流から見て木の反対側から、ひょっこりと姿を現した先ほどと同じ容姿の少女。その瞬間、透流の思考が完全に停止した。
少女は永瀬に近づくことも無く、ただただ只管に固まった永瀬の顔を覗きこんでいる。
「……アァァァァアアアアアッ!!」
数秒の間があってから、透流が絶叫した。ひとしきり叫んだ後、ギロッと少女を見下ろし痰を飛ばす。
「お前! 何!? 僕に何の用なの!? 何で付きまとって来るんだよ!? ハッ、妖怪だから『妖怪に用かい?』ってベタな駄洒落かます為にこんな事してるってか!? 僕はお前なんかに用はねェんだよ!」
「………………」
だが透流がマシンガントークよろしく捲くし立てるも、少女は口元に笑みを浮かべたまま何も言う気配を見せない。
「なァんか喋ってみぃやぁァアこのアホンダラァァッ!!」
何の反応も示さない少女に透流は激昂し、終いに少女の右頬を鞄の角を使って殴り飛ばす。
少女はそのまま二メートルほど飛んだ先で唐突に消えた。荒い息のまま透流はその次の瞬間に絶望に似た感覚を味わうことになる。
先ほど少女を殴ったのがスイッチだったかのように、透流の周囲は何処からとも無く沸いて出てきた数十人の少女で埋め尽くされていた。その少女達の表情に、笑みは無かった。
「ぁぁ……っ!」
透流の口から無意識に出る呻き声。先ほどの少女から打って変わって、明確な殺意すら感じられる周りの少女達。
皆が皆、先ほど消えた少女に殴った跡を残している。それが更に透流の恐怖心を煽った。
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