第二章『The past....』

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「……うっ、ぶほっ! げほっげほっ」  透流は全身に走る痛みと、その痛みから来る堰で意識が戻る。  視界の端に、桜の大木が映った。つい最近も見た様な気がする桜に違いは無い。ぁぁ……そういえば訳わからん『オカルト』に巻き込まれて、そのまま―― 「……ちょっと、助けてあげたのにいきなり唾飛ばさないでよ!」  と記憶の切れ端を拾ったところで、近くで頭に突き刺さる怒鳴り声がフェードインしてきた。その声に眉を寄せつつ声の方を向く。  真上に……透流を見下ろすように向けられた十四、五歳くらいの小柄な少女の、不機嫌そうにしている顔があった。  背中半分を隠す程の艶やかなブロンドの長髪。眉の下まで伸びる前髪とは別に、他の長い髪が邪魔にならないようにするためだろうか、耳とも羽とも連想させる微かに光のある黒……漆黒のリボンカチューシャがちょこんと頭に載っていた。  すっと通った鼻梁、綺麗に整った顔の輪郭と、傷一つ無い白い柔肌。それが、鮮血のような紅の大きな瞳を際立たせている。  茜色に茶色のラインの施されたプリーツスカートに黒のニーソックス。レースの付いたピンクのキャミソールの上に、薄手の赤いボレロを着ていた。 「あれ、何で僕……?」  頭を抑えながら目の前の光景と、今の自分の状況を整理する透流。だがそこで透流の手は、大地とは明らかに違う……柔らかい感触を得た。 「あんた、あいつ等にボコボコにされてたのよ。全く、私が駆けつけなかったら死んでたわ……」  ともあれこうして目を覚ましたから一安心ね、と少女は告げる。だが透流はそれを聞いていられるほどの余裕は無かった。  結果から言うと、透流は少女の膝の上に頭を乗せて横になっている。俗に言う膝枕をされていた。 「(ちょっ、えぇぇえー! なんで僕膝枕されてる!? 走馬灯って言うにしてもこんな幸せな記憶持ってませんが!? ……まぁいいや、この際どうでも。はぁ~これが世に聞く膝枕ってやつかぁ)」  透流が痛みも忘れ妄想に耽る。少女はその様子をだんだんと怪訝に思い始めた頃、透流は徐に起き上がり少女の手を取る。 「ありがとう! よくわからないけど、君のお陰で何か元気出てきた!」
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