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その様子が、素直に可愛いと透流は思った。オカルトだとか、そんなこと抜きにして。
だからかもしれない。瞬間的にぞわりと膨れ上がる嫌な予感に駆り立てられ、少女の体を突き飛ばしたのは。
「ッ! ちょっと、いきなりなにすん――ッ!?」
いきなり体を押されて怒鳴り返そうとした少女の目が、次の瞬間驚きに見開かれる。
先ほどまで少女が立っていた場所で、木の根が透流の胸を貫いていた。
「が……ふッ!?」
透流は激痛に耐え切れず血反吐を吐く。想像以上の腹部に感じる熱と痛みに、体の自由が利かなくなる。
「くっ、まだ本体が残ってたの!?」
少女は突発的に桜の大木の方に視線を向けた。そこに、先ほど数十体ほど葬ってきたはずの歪な少女を象った妖怪が、今度は体が木に取り込まれたような容姿をしてこちらを見つめている。
透流の体から木の根が抜き取られ、透流は支えを失い大地に伏した。荒い息を何度も繰り返し痛みを和らげようとするが、焼け石に水である。
少女は倒れている透流の傍に駆け寄った。
「(まさか……私に気付かれないように気配を殺して!? いやそんなことより、こいつ……私でも気付けなかった気配を、『察知』して私を庇った!?)」
妖怪の方は、立ち止まったまま……気配を殺すことも無くただその場に存在するだけ。
「あんた……あいつの攻撃が来るのをわかってたの?」
「何と、なく、そんな予感がした……だけ、だけどな。へへっ――うぅゥ、ッく! ァァ、悪ぃ……折角助けて……れた命、無駄にしたわ、勿体……無い」
透流は視界の端に少女を捉え、ゆっくりと言葉を返す。今までに感じた事の無い激痛の中、透流の意識はだんだんと遠のいていった。
透流は……本日二度目の『死』を迎える。
「……あんた如き人間が、私を助けようなんて。おこがましいにも程があるわよ、全く……私なんか、助けるに値しない人間だったってのに」
少女は対して感情の起伏は見せず、ただ淡々とその言葉を呟く。透流の傍で膝を下ろし、今も尚血を流すその体に片手を添えた。
べったりと血が手に付着する。それでも構わない。少女はそのまま余った片手でそっと透流の髪を掬った。
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