第二章『The past....』

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「絶対に、あんたは『死なせない』。況してやこんな『面白い』人間ならね。……それに、助けた人が私を庇って殺されるなんて失態――」  そのまま、少女は透流の首筋に自分の唇を当て……自分の『武器』を突き立てる。  刹那、少女の纏う雰囲気が変貌した。見る者を震え上がらせる程の気迫、触れる者を気絶させてしまう程の重圧。全てが今までの少女のそれを、遥かに凌駕する。 「夜の王の恥じゃない」  バサリと背中にある漆黒の翼が広がり、そこから更に実体の無い翼が飛び出した。それだけで殺気が強まる。  少女は手に付いた血を舐め、妖怪をその紅い瞳で睨みつけた。その口元は血に染まり不気味に笑っている。  妖怪は未だ動きを見せない。未だ桜の大木の下で歪な顔を少女に向けていた。 「そう思わない? そこの下種……っ!」  すっと広げた掌からバチバチと空気を裂く音が鳴り響く。それは次第に珠の形を成し、今にもはちきれんばかりに蠢き始めた。  少女の手は、その珠を解放……落下していく軌道の先は足元。それを少女は何の躊躇いも無く、蹴る。  すると耳を叩く轟音と共に、その珠が槍となって妖怪を襲った。妖怪は自己防衛を働かせ、幾重にも木の根を大地から延ばし防壁を作る。  根が槍を受け止め、消滅した。それを補うように他の場所から根が次々と飛び出してくる。 「抵抗する? 無駄なのに」  ――ガエボルグ。  少女の嘲笑と同時に『雷の投擲』を意味する攻撃が、その本性を現す。槍は無数の『矢』となって木の根の間を掻い潜り、いとも容易く妖怪の体を貫いた。  勝負はなんとも呆気なく終わった。妖怪は跡形も無く消滅し、それを確認すると少女は翼を閉じる。  さて、と少女は血の海に染まった透流に視線を落とし、数瞬の思考の後に徐に自分の指を傷つけた。 「っ……!」  決して浅くは無い傷。そこから生命の根源と称される紅い液体が漏れ出てくる。それをもう一方――透流の血が未だ付着している手で受け止め、口に含んだ。  瞳を閉じ、意識を空へ投げ掛ける……
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