第二章『The past....』

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 やがて、少女の周囲を包むように光が差し込んだ。魔方陣がその光と重なり合い、共鳴……縮小していく。  少女は口元に両手を広げ、ふっと息を吹きかけた。その息を包み込むように手を擦っていく。  片手を離すと、そこには少女の瞳と同じ紅色の親指の爪ほどの大きさの結晶が輝きを放っていた。 「はぁ……」  だが結晶を透流の胸に乗せた後、徐に溜息を吐く。嫌な事を思い出したのか、下唇を噛んで逡巡した。少女は雑念を払うように首を振って再び集中する。 「我は主……汝に従の属性と力を施-セ-す者也。今宵この契約を天に輝く魔力の象徴、満月に誓う。エトリーゼ……ヴラムスト」  透流の胸に輝く紅色の結晶が明滅すると同時に、水溜りを作っていた透流の血が結晶に取り込まれていく。服を突き抜けそのまま胸の位置に肉体と同化すると、その反応も消えた。  後に残ったのは、地に染み付き酸化し始めた血痕とボロボロの体の透流の姿。 「……ん」  透流の倒れているすぐ傍、血の海を避けた位置に小さな手帳を見つけた。少しだけ土を被ったその手帳を拾い上げると、少女はその手帳に付着した土を払い中を開く。 「永瀬透流、ね……」  少女は透流の傍で片膝を付いて座り、透流の顔を覗きこんだ。苦痛を感じさせない、とても穏やかそうな表情のまま瞼を下ろしている。 「ほ~ら、起きなさいよ。いつまで此処で寝ているつもり?」 「……うぅぅにゃ、貴様のよォなペッタン娘ふぜ~がこの兄に――」 「――ッ!!」  少女の足が容赦無く透流の脇腹を襲う。何か無性にムカついた。ただそれだけの原動力で……人外的な怪力によって、透流の体はサッカーボールのように飛んでいく。
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