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「僕が……君の……使い魔?」
「そう、私の……ぁぁ、自己紹介がまだだったわね。私は月浦 紗夜-ツキウラ サヤ-……吸血鬼よ、以後お見知りおきを」
言って月浦と名乗った少女は少し汚れた手帳を差し出す。何故自分の生徒手帳を持っていたのか問い質したい気持ちはあったが、透流はそれをとりあえず受け取る。
「永瀬透流だったわね。とりあえずこれ以上混乱を生むのも流石に気が引けるから、日を改めて話し合いの場を置こうと思うんだけど……異論は無いわね?」
月浦の言葉に一度だけ頷く。使い魔だの吸血鬼だの云々かんぬん告げられ、既に自分の理解度を越えているのだ。これ以上何か変なことを言われると病んでしまいそうになる。
「それじゃ、後日使いを出すからそれまでゆっくり休むと良いわ」
月浦はそう言うと背中の翼を大きく広げた。バサリと空気を凪ぐ音と共に月浦が物凄いスピードで舞い上がる。そのまま月浦の姿は見えなくなり、その場には透流だけが残った。
地に付着した自分のものであろう血痕。幾つも小さく隆起した大地。穴が空きボロボロになった制服。全て現実に起きた出来事だ。
自分の忌み嫌っていたオカルトが、目の前の光景全てを結び付けている。
「………………」
暫く呆然と立ちっ放しになっていたが、ふと気付く。秋雨公園を覆っていた嫌な雰囲気も消えてなくなっていたことに……
恐らく、あの嫌な雰囲気はあの歪な顔を持った少女のものだったんだろう。それが無くなっていると言うことは、つまりはそういうことだ。
とりあえず家に帰ろう。そう結論付けて、透流はとぼとぼと歩を進める。
自分の取り柄である活力も今は見る影すらない。それほどまでに今夜の出来事は透流にとって大きすぎたのだ。
鞄の中にしまった携帯を取り出し、メール画面を表示。時刻を見ればもう九時を過ぎていた。
一先ずは家にいるであろう妹に今から帰る旨を伝えることに……
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