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「……と言うのが僕の一時間半を費やした成果な訳だが、どうだ?」
十畳ほどある部屋の中央。深夜……それも既に日が変わっている時刻にも関わらず、声を張り上げて手に持っていた数枚の資料を木製の小さなテーブルに叩きつける一人の少年、永瀬 透流-ナガセ トオル-。
若干幼さが残る顔に、茶髪を後ろで短く結っている。加えて左目に少し掛かる前髪に赤のメッシュをかけていた。
透流は正面で胡坐を掻いてい欠伸を噛み殺している少女を見据える。
少し癖のある肩に掛かる程の茶髪。輪郭や口元は何処となく透流と似、その漆黒に澄んだ瞳を、細めた瞼から覗かせていた。
風呂上りだからだろうか、普段はハーフアップにしている髪形も、今はそのまま手をつけずに垂らしている。既に淡い水色のパジャマに着替えており、これから寝ようとした所で呼び止められたのだ。
「いや……どうだ? って、そんなドヤ顔で言われてもさ。それであたしはどう反応をとれば良い訳? 『うわぁ凄いね兄さん! 何時からそんなに頭が良くなったの?』って称賛するべき? それとも『頭大丈夫? どこかぶつけてない? 病院行って診てもらった方がいいよ。精神科とか』ってあしらうべき?」
呆れた表情で視線も合わせずに髪を弄るこの少女は、永瀬 灯莉-ナガセ アカリ-。永瀬家の血を引く、透流の二つ下の妹である。
武道を学んでいる訳でも無いのに矢鱈と強く、大抵の男でも正面から立ち向かえば勝てる見込みは無い。過去に二度ほど痴漢に出くわすも、それを難なく返り討ちにした武勇伝も持つ。
それでも上下関係が逆転しないのにはとある理由が強く絡んでいるのだが、それはまた別の話。
「んぐっ……褒められてる気がしないし、あしらうというよりかは貶されてるような」
「それ程どぉでもいいって事よ。……大体兄さん、そういうの調べるほど興味あったの?」
灯莉は何度目かの欠伸をしながら、手を後ろに付き体を仰け反らせる。
先ほどの灯莉の言葉から察するように、透流は今までオカルトなんて興味無かった。興味どころか、逆に嫌っていたりすらしている。
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