第三章『激情の果て』

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「……納得出来ねぇ……!」  翌朝。自分のベッドから這い起きるなり呪詛のように呟く。  月浦紗夜という吸血鬼少女の使い魔になることで生き延びることが出来た身だが、オカルトを嫌う透流がオカルトの一味となるのはいかがものかと。  昨日の出来事は夢ではない。その証拠に、胸に今も尚輝く親指の爪ほどの結晶が埋め込まれている。何度見直してもその存在は消えてはくれない。透流はベッドから起き上がるとパジャマを脱ぎ捨てる。 「大体なんだよ『吸血鬼』って。吸血鬼なんてホイホイと歩き回ってるもんなのかよ、ここは日本だぞ……祖国に帰れ」  救急車で運んでもらった方が絶対に良かった。何故そうしてくれなかったのかと、だらだらと文句を垂らしながら私服に袖を通す。  ハンガーに掛けた制服は背中部分に穴と、全身部分に血を吸って見るも無残な姿になっていた。こちらの問題も早急に片をつけねばなるまい。  実際家に帰った時が何より大変だった。家の敷地面積に比べ、そこに住んでいる人数が少なすぎたのが救いであったにしろ、まさか自分の家でスニーキングミッションをする破目になるとは思わなかった。 「来週も着るってのに……制服の替えなんて夏服しかないぞ。まだ衣替えには早い時期だってのに」  四月中旬の寒さの残る時期に、夏服の制服を着て歩くというのは正直辛いものがある。  まぁ不幸中の幸いか、透流の通う高校は制服の着こなしについてはさほど煩くは無く、ズボンに関しては冬服も夏服も生地の厚さが違うだけで色は変わらない。ワイシャツだけは替えもあるからそっちに気を配る必要はなさそうだ。 「今から制服を用意してもらうとして……月曜に間に合うのか?」  一体どうしたものかと腕組み思案していると、不意にドアの向こう側から此方に近づいてくる足音が聞こえてくる。  この時間、この場所に来る人物は一人しかいない。透流は頭を掻き毟りつつもドアを開けようと手を伸ばした。 「兄さん。兄さん宛に荷物届いてるけど」 「俺宛?」  開けたドアからハーフアップの少女、灯莉が顔を覗かせる。既に学校の制服に着替えており、直ぐにでも家を出るつもりなのだろう。  透流は灯莉の持った荷物を受け取る。片手で持てるくらいの、何の変哲も無い普通のダンボールだ。
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