第三章『激情の果て』

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 そして、肝心の差出人は――何故か書かれていない。 「あれ、これ差出人書かれてないじゃん」 「嘘っ?」  透流がその事を指摘すると、灯莉は頓狂な声をして荷物の領収書の宛名に視線を落とした。何も書かれていない……何度も見返したけど結果は変わるわけも無く。  首を傾げおかしいなぁと呟く灯莉に、透流は溜息を吐いた。 「確かに受け取った時は何か書いてあった筈なんだけど……」 「何かって何だよ? そこんとこ詳しく、さぁ……さぁ、さぁさぁ!」 「ぅ~……あぁもうわかんない! 忘れちゃったわよ、そんなこと!」 「痛ッ! 蹴り無し、逆ギレ反対!」 「兎に角! あたしもう部活行かないといけないから。ぁっ、部活帰りそのまま友達の家に泊まりだから、晩御飯は各自でよろしく。カレー作ってあるから、それ温めて食べてね」  問答を半ば強制的に終了させて、灯莉はバタンとドアを強く閉めた。独りぽつねんと立つ透流はドアと手に持った荷物を交互に見やり、蹴られた脛を片足で擦りながら再び溜息を吐く。  差出人が書かれてないんだったらこういうのって届かないんじゃなかろうか……知らないけど。 「とりあえず放置しとくか……業者ももう別んとこ行ってるだろうし」  荷物をパソコンの隣に置く。とりあえず予てより計画していた散歩でもしようと、透流は部屋を出た。  靴箱から履き慣れたスニーカーを取り出す。新しく買った靴もあるけど、長く歩いていくにはやはり足に馴染みのあるモノの方が良い。  玄関の引き戸を開け外の空気を肺に取り込む。鍵を閉め、念のため開かないかをチェック。  家は正に『和の塊』だった。家の脇を通れば縁側のある大きな庭があり、昔は良くそこで時々迷い込んでくる猫を追いかけたり一緒に日向ぼっこしたりした。  並みのアパートよりも敷地面積はあるし、二階建て……一体何処にこれだけの家を買うだけの資金があったのか不思議なくらいだ。
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