第三章『激情の果て』

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「行ってきます」  誰に言うでもなく呟いて、透流は家を発った。  一本道から脇道に逸れて暫く歩くと、透流が通った小学校まで続く大通りに出る。歩道と車道はしっかりとガードレールで隔てられており、子どもたちの安全への配慮は万全だ。 「いや~、懐かしいなぁ」  杉の植え込みを挟んで見える年季の入ったマンションを見上げながら、当時の思い出を甦らせる。確かこのマンションの裏に小さな草地が茂っており、そこを使って缶蹴りをしたのだ。  道の途中で小学校時代に有名だった、通称『番犬』の住む家に差し掛かる。よく吠えるし、よく噛み付く……柵がしてあるのを良い事に、度胸試しと称してちょっかいを出してはよく家の人から苦情を貰ったりもした。  今ではその番犬の姿は無い。引っ越したか……或いはもう死んじゃったか。 「……もしかして、永瀬、君?」  ふと背後から聞き慣れない女の声がした。慌てて振り返り……胸部に痛みが伴い、呻く。 「ぁっ、すいません! なんか知人に似ていた気がして声を掛けたんですけど……えっと、永瀬君?」 「……む?」  恐らく昨日の傷が原因だろう、と一人結論付けて改めて自分の名を呼んだ人物を見る。  若干ウェーブの掛かったショートボブ、色は地の黒に薄らと茶をのせた感じ。薄手の淡い水色のワンピース一着という些か4月半ばの服装とは思えない格好だった。  輪郭がはっきりしており大人びた印象を受けるが、瞳が大きく柔らかい雰囲気がある。 「えっと……確かに僕は永瀬で合ってるんだけど、君が誰なのか僕にはちょっと判んないんだが……」 「ぁ、うん。そうだよね……私あまり目立つの得意じゃなかったから。……酉原 梨絵-トリハラ リエ-。ほら、小学校の時同じクラスだった」 「………………」  酉原の自己紹介を受け、透流は暫し脳内検索。検索ワード『小学校』『同級生』『とりはらりえ』『ちょっと可愛い』……
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