第三章『激情の果て』

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「じ……じゃぁ、昨日言ってた使いって……?」 「そうだニャ。まぁ落ち着いたようで何より何より」  左右に横たえた尻尾が床を転がる。アルザは目を細めて一拍間を置くと、再び透流を見上げ口を開いた。 「それでは小僧。早速ニャんじゃが、お主をお嬢の待つ館へと案内するぞ。おれっちは先に外で待ってるからニャ」 「ぁっ、おいちょっと待ってくれ!」  アルザはその双尾を揺らし、机に一息でジャンプしてから傍の窓を開けた。そこから飛び出さんとする黒猫を、透流は呼び止める。視線はその揺れる二本の尻尾に注がれていた。 「何だニャ?」 「えっと、どうやって喋ってるの? 背中にスイッチとかあったりする訳、かな……?」 「……まさかこの期に及んで、おれっちがただの『喋る猫』だって認識しかしてニャかったって言うなら呆れるぞ」  アルザはジト目を透流に向けたまま声のトーンを落として溜息を漏らす。  しかしアルザというこの猫は、これで完全なオカルト世界の住人基住猫と言うことが決定的となった。そしてその猫が、恐らくは自分の陣営に透流を連れて行く事になる。  このままずるずるとオカルトの世界に足を踏み入れてしまうのだろうか? それは何が何でも避けなければと思う透流だった。  今日は兎も角、明日も明後日もずっとこんな非現実と向き合って生活しないといけなくなるとか、透流には身の毛もよだつ思いである。 「兎に角、おれっちは先に出て行くぞ。玄関先で待っておるからニャ」  そのまま窓の向こう側に何の迷いも無く飛び込む。透流以外誰もいなくなった部屋で、ただ独りの透流はアルザとは違う意味で溜息を漏らした。  アルザの出て行った窓からは、透流の不幸なんて微塵も感じさせないほどの快晴が窺える。  二階に位置する透流の部屋。そこからあのアルザは飛び降りたのだ。まぁ普通の猫にしてもこの程度の高さなんて屁でもないのだろうが。  透流はアルザが出て行った後の窓を閉め、特に何も持っていかず部屋を抜けた。  ……兎に角、今日はそんなオカルトとは縁を切る。その為の一日としようと意を決することに。
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