第三章『激情の果て』

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 玄関の戸を開けると、既に待ちくたびれたかのようにアルザが地に腰を降ろして座っていた。 「では案内するニャ」  本日二度目の外出。アルザは我が家から離れると直ぐに他の家の敷地と道を隔てる塀の上にジャンプして上り、その上を四足で歩き出す。  暫く無言だったのが気まずくなり、透流はふと気になったことを訊ねようとアルザに向けて言葉を紡いだ。 「あのさ。アルザは月浦の、その使いって言ってたよな? だったら、アルザも……アレってことか?」  しかしながら使い魔という単語を口で言うのも躊躇い、結局透流は言葉を濁した。アルザの方は最初に限っては首を傾げていたものの、漸くその意味を察すると歩きを止めて塀の上に座り込む。それに釣られる様に透流も歩を止めてアルザを見上げた。 「おれっちとお嬢の間には儀式的契約は無いニャ。それに基本一個体につき使い魔は一つじゃよ」  透流の頭の中でアルザの言葉が反芻する。……ではアルザと月浦は一体どういった関係なのだろうか?  首を傾げ思案顔の透流に更にアルザは言葉を連ねる。 「お前にとっては……いい所で、使い魔の先輩ってところじゃな。まぁおれっちは正式には使い魔じゃニャいんじゃが」 「……?」  更に判らなくなった。透流にとっての、所謂『上司』……でも実際は月浦の使い魔では無い?  先ほどのアルザの言葉を鵜呑みにするなら、月浦が仮にアルザを使い魔としていたのなら透流は月浦の使い魔になれず、そのまま御陀仏だったことになる。  使い魔では無いが使い魔のようなもの……そういう曖昧な表現でいいのだろうか? 「おれっちは元々お嬢の飼い猫だったのニャ。だからこうして化けた時からお嬢に仕えてるって訳。これぞ正しく『猫の恩返し』! ニャんちって」  ……急にこの妖怪猫を殴りたくなった。人が折角嫌いなりにも真面目に話していると言うのに。  本来ならば昨日の出来事に関連したこととは縁を切りたいとマジに思っている。そして早く普段の生活に戻りたい。
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