第一章『結果』

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 というのも、母親の死が原因だった。内側から何かが突き破ってきたような……そんな跡を腹に残し、母親は自宅の庭で倒れていた。明確な死因は不明のまま葬儀が行われ、以後透流はオカルト的な話題を避ける傾向があったのだ。  オカルトに関わるとロクな事が起きない。それが透流の自論である。だから霊感が非常に強く、時々霊と対話する行動を見せて茶化す父親にすらも、やがて距離を置くようになった。  結果、家族と密接な関わりを持っているのは実質妹だけだ。一応父親にも育ててくれた恩と言うのは持っているようだが……  それが一時間半の資料漁りに発展したのである。勿論灯莉も兄がオカルト嫌いな所は知っている。だから尚更疑問だったのだろう。 「人間生きてると色々あるってことよ。明日にもお前の人生の方向性は305度変わるかもな?」 「うわっ、えらく中途半端な数字……それを言うなら180度でしょ?」  灯莉は我慢できず欠伸をしながら、テーブルに散らばる資料のうち一枚を手にとって流し読んでいく。その資料に対して、さして興味もなさそうに……いや実際興味は無いんだろう。早く寝たいと顔に出ている。 「……まぁそれは良いとして、それが兄さんにとって『今日』だったって事?」 「そーいうこと!」  ちょっと前の記憶を遡り寒気を覚えるが、せめて妹の前では強気な兄を演じていたかった透流はそれをぐっと堪えた。 「ふ~ん……ふぁ、ぁ~~っ。ねぇ、もう済んだんなら戻っていい? いい加減限界かも……」  そう言うなり返事も待たずに立ち上がる。透流はそれに頷いて応えると、資料を集め一箇所に纏めた。  自分の妹が出て行ったドアを見つめてから、ふと窓から見えた強い存在感を放っている満月に視線を投げる。 「……月浦紗夜、か」  その不気味なほど輝く満月に、今一番記憶に残っている人物の名を口にする。胸元に手を当て、服の上からソレを掴んで眉を寄せた。服の中で歪に輝く異物は、永瀬の心に大きな波を作る。  それもこれも、全ては凡そ六、七時間前の出来事に起因する。透流の人生を狂わせた、不思議で可笑しな怪事件……
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