第三章『激情の果て』

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「……ぁ」  透流は目の前の光景に、思わず息をするのも忘れ立ち尽くした。  そこは先ほどまでの林道ではなく、とても開放的な空間が広がっている。  背後には富士山にも似た山が聳え、その山頂は雲が掛かっていた。何処からとも無く、聞いたことも無い鳥の声も聞こえてくる。  脇を緩やかに流れる小川の先には大きな湖があり、傍に立つ大きな木が艶やかな緑の葉を宿し透流達に涼しげな日陰を作っていた。  そして正面に窺えるのは、長い長い煉瓦塀とそれに負けず劣らずの大きな門だった。その門も立体感溢れる獣や人といった彫刻で彩られ、強い存在感を放っている。  そしてその門の向こう側では、遠目からでも判るほどの巨大な白い洋館が建っていた。 「なっ、なななな……」  透流はその情景を見てわなわなと体を震えさせる。 「アルザだニャ。永瀬透流を連れて戻ってきたぞ」  しかしそんな様子なんて微塵も興味ないといった風に、アルザは門の前で声を上げた。果たしてそれを他に誰が聞いたのか解らないが、アルザが喋り終えてから直ぐに、門の扉が重々しい動作で開きはじめる。 「ちょっと待て、おいオイ! なんだよ此処!? ……ハァ? 何、さっきまでの林道は!?」  透流は平然と門を潜り中に入っていくアルザに捲くし立てた。目の前で起きた現象に未だ着いていけず、パニック状態に陥る透流を流し目にアルザは進み続ける。 「此処はお嬢の住まう館ニャ。それにあの林道は、此処を隠すためのカモフラージュに過ぎニャいだけじゃよ」 「へぇそーなのかぁ。って流せたらどんだけ幸せ者になれるんだろうな僕ァ!」 「兎に角、うだうだ言ってニャいで、一緒に来るニャ!」  それ以上何も言わないアルザに、納得いかないまま仕方なく着いていく透流。門を越えて洋館の入り口らしき場所に辿り着くと更に驚き。  高さ五メートルはある玄関口の扉。透流の身長の約三倍だ。まるで自分が小人にでもなったのではないかと錯覚させられる。
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