第三章『激情の果て』

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「中に入るといいニャ」  アルザに促され、扉に手を添える。しかしてその大きさに比べそれほど力を入れる必要もなく扉は開かれた。  外装は白一色で落ち着きのある雰囲気だった分、内装はとても華やかな印象を受けた。  玄関口から赤い絨毯が正面階段まで続き、左右に二つずつ対照に部屋が置かれている。一階……階段の両脇の向こうにも廊下が見え、恐らく一階の他の各部屋へと続いているのだろう。  エントランス自体もかなり広く、高い。天井には、その広さに見合うだけの大きなシャンデリアが輝き、壁には所々絵画が掛けられ、階段の脇や部屋の隅といった場所には、諭吉が何枚飛んでいくかも解らないほどの工芸品や置物が存在している。 「………………」  そんな光景を魅せられて透流は、とても場違いな場所に足を踏み入れてしまったと感じた。  先ほどまでのオカルト現象にはこの際目を瞑るとしても、この館そのものに違和感を拭えない。  そもそも日本にこんな場所は存在しない。全てを見た訳ではないけれどそれだけは断定できる。 「おっそぉぉぉおいッ!!」 「ッ!?」  広大なエントランス全体に響きを利かせるほどの大声。それが透流とアルザの耳に届き、思わず両者ともビクッと体を震わせた。  その音の発信源……正面の階段の中腹で腰に両手を当てて眉根を寄せながら一人と一匹を見下ろす少女の姿。それは透流にとっても見覚えある基印象に強く残っているものだった。  背中半分を隠す程の艶やかなブロンドの長髪に、漆黒のリボンカチューシャ。綺麗に整った顔の輪郭と白い柔肌が、紅の双眸を際立たせている。  月浦紗夜。この館に住まう者であり、透流を使い魔というオカルトに染め上げた第一人者だ。  月浦は透流達の所へやや早足で辿り着くなり、何の前触れも無くアルザの首根っこを掴み上げる。 「アルザ! 一体何処で油を売ってたわけ?」
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