第三章『激情の果て』

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「ニャニャ!? いっ、いや別にそういう訳ではニャいんじゃが、ちょっとした事情が」 「よし聞こう。聞いた後でお仕置きしちゃる」 「せっ、せめて話の内容で判断してくれニャいかニャ……?」  アルザは先ほどまでの態度とは打って変わって妙にしおらしく縮こまってしまう。  そんな一人と一匹のやり取りに、状況も忘れ思わず呆然とする透流。少しして月浦はそんな視線に気付くなり、持ち上げて揺さ振りをかけていたアルザの体を手放した。  変な体勢からでもアルザは見事に着地をしてみせる。流石は『猫』といったところだろうか。  アルザはこれにて御役御免といった感じにその場からそそくさと立ち退いた。実際は月浦のお仕置きから逃げたかっただけかもしれないが。 「大丈夫? ボケーッとしてるけど」 「えぁ!? う、まぁ大丈夫っちゃ大丈夫だけど……」 「そ、まぁいいわ。一般人が経験するにはちょっと刺激が強かっただろうし。そうね、このまま立ち話ってのもあれだし、部屋に案内するわ。ついてきなさい」  言って月浦は踵を返し階段脇の奥の廊下へ歩を進めた。少し遅れて透流もその後に続く。  エントランスには見えなかったが、廊下は幾人かの使用人然とした人達が忙しなく動いていた。  時たますれ違うその使用人たちに視線を向けられるたびに、透流は背筋に寒いものが走る。とても落ち着けるような雰囲気ではなかった。 「少しは落ち着いたかしら?」  前を歩くブロンドの髪を持つ吸血鬼が、肩越しに透流に視線を投げ掛ける。 「ぁあ……まぁ何とか、な」  実際は落ち着けるどころか、居心地が悪い事この上ない透流だったが、表面上ではなんとか平常心を貫く。  その間にも、周りからの奇異の視線は注がれ続けている。こんな状況でなったら、きっと爆走してこの場から退散するところだろう。
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