第三章『激情の果て』

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 やがて月浦が一階廊下の最奥の扉に手を掛けた。その扉は他の扉とは形が違い、ここの門の扉に似た彫刻が施されていた。  その扉を開けると、その先は真っ暗だった。光源はこちら側からの僅かな光のみ。  その中に月浦は何の躊躇いもなく入っていく。透流も意を決してその暗闇に入っていくと、独りでに扉が閉まった。  ガタンッ、と言う扉の閉まる音に透流は慌てて背後を振り向く。まさかこの暗闇に乗じてこの吸血鬼が何かしでかすのではと警戒するが、それも本人の呆れた口調が吹き飛ばした。 「なにやってんの? そんな変なポーズして……」 「へ? ぁっ、いやぁ……あっあははは。ちょっと蟷螂拳の練習をば」  乾いた笑いを一つ、改めて周囲を見渡す……が、真っ暗闇の中じゃ何も見えなかった。  しかし月浦はその状況で透流の仕草を指摘できた辺り、少なくとも月浦にはこの環境で透流の姿を確認できているということだろう。 「……ほら、馬鹿やってないでさっさと行くわよ」  そう言って月浦は指をパチンと鳴らす。瞬間、奥の方から次々と両脇に火が灯りだした。  一本道。距離にして大体20メートルほどだろうか。外観を見た時から思ったことだが、とんでもなく大きい館である。  その灯火の間を無言で二人は歩いていく。その終着点に見たのは、先ほどと全く同じ造りのドアだった。  そのドアのノブを捻り、ドアを押す月浦。その奥の光景に思わず透流は目を瞬いた。  まず目に付いたのは、天蓋付きセミダブルベッドだ。こんなもの、先ず一般家庭に置いてある物ではない。その隣にクローゼットが並んで置かれていた。  自分の身長の倍以上はある本棚が左手側の壁にびっしりと連なっており、その棚全てに本が所狭しと並んでいる。  二階建て相当の天井に螺旋階段。その先はドアに続いている。恐らくそこから二階の廊下に出られることだろう。  全体的に落ち着いた色で構成された学校の教室ほどはあろう空間。しかも家具の配置に無駄がなく、不快感を全く感じさせない。  スケールの大きい個人部屋。透流のこの空間に抱く第一印象はそれだった。
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