7人が本棚に入れています
本棚に追加
「お前と室井を二人きりにさせると危ないんだよ」
「大丈夫だって! 一応僕は公私の区別はしっかりする主義だから。な? 委員長!」
「そうですねぇ。まぁもし万が一って事があっても、永瀬さんなら返り討ちですから~」
そんなやり取りを見て再度溜息を零す富岡。中学時代の三年間とこの高校に上がってからの一年間、この三人はずっと一緒のクラスだった。だから富岡も二人の人柄についてはよく知っている。
一言添えておくと、この二人は別に付き合っている真柄でもない。二人にとってはただの『面白い相手』でしかないのだ。恋愛感情は全く無い。
そんな二人の茶番を尻目に、自分の机に掛かる鞄を重々しそうに肩に掲げた。
「ほら、ふざけてないでさっさと帰り支度済ませて帰るぞ」
富岡は透流を催促させ、教室後ろ側のドアを開ける。ドアを開いた所で一度教室側に視線を戻し、
「悪いが室井。後の事は任せたぞ」
「はぁいわかった~。二人とも気をつけてねぇ」
室井のその言葉を聞き、教室を出る富岡。その後を透流が最後に残る室井に手を振りながら追いかけた。それに同じく手を振って応える室井。
バタンッと閉められる教室のドア……結果として教室には室井一人が残る形となる。
一気に静かになる教室。ただ聞こえてくるのは、風に揺れて靡くカーテンの音だけだった。
室井は息を吐き、頷き一ついれる。そして永瀬の課題を眺めながら誰に言うでもなく囁いた。
「さて、それじゃ永瀬さんの課題をあの担任に届けちゃいましょうか」
彼女は自分の荷物を纏めると、まるで踊るようにしてドアを開けてその場からいなくなった。
やがて、教室からありとあらゆる『音』が消える。動く物が無くなり、まるで一枚の写真のような光景が広がっていた。
最初のコメントを投稿しよう!