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宵織は呆れ顔でスーツのポケットを漁り始めた。
「これ。解熱鎮痛剤だから、とりあえず飲んだら。」
「要らない」
「飲みなよ」
「断る」
「…飲め」
終いには眉間に皺を寄せて凄まれ、熱で抵抗する気力すらない明識は渋々薬を受けとった。
「店番は私がしてるから、もう部屋戻っていいよ。」
「……悪い」
「どうせだるいんでしょ。無理しないでさっさと寝ちゃいなよ。」
「ああ」
明識は残ったミネラルウォーターで薬を飲み下すと、鉛のように重い身体を引きずって地下への扉を開いた。
* * *
「調子どう…?」
2時間ほど経って、ノックの音に続いて開いた扉の隙間から遠慮がちにかけられた声は、紛れもない宵織の声だった。
薬で幾分熱は下がったが、だるいことに変わりはない。
「よい、おり…」
彼女の名を呼ぶ明識の声は、情けないほどに弱々しかった。
「なに風邪ごときで弱っちゃってるの。…まぁ、久々に熱出すと辛いんだろうね」
枕元まで近づいできた宵織は、明識の額に手をやると、さっきよりは下がったかな、とひとりごちた。
「朝から何も食べてないんでしょ?蔦織さんがお粥作ってくれたけど…」
「………いい」
「食べた方がいいと思うけど。風邪薬の予備もあったみたいだし、少し食べて薬飲んだ方がいいよ。今持ってきて…あげ…」
頭がボーッとした。
踵を返そうとする宵織の袖を引っ張ったのは、無意識だったのだろうか。
ぼんやり考えながら明識は宵織を見た。
「…、な」
「何?」
「…行く、な……」
「…。ちょっと弱りすぎじゃない?」
宵織はため息混じりにぼやいた。
しかし、そんな文句も耳に入らないほどに明識の思考には靄がかかっていた。
(あーくそ…)
(なんでこんなに…)
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