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「…?」
困り顔の宵織の手首を掴むと、明識は乱暴に自身のベッドに引き込んだ。
「うわっ!」
バランスを崩した宵織は、ベッドにいる明識の上に勢いよく倒れ込んだ。
すかさず明識は掛布団の中に宵織を引きずり込み、抱きしめる。
「ちょっ…あけっ…!」
宵織は必死で抵抗してきたが、熱で弱っている明識の力にすら勝つことはかなわなかった。
どうしてこんな行動を取ったのか。考える余裕すらない。
いつもは自分を嫌っている意中の人物が。
妙に今日は優しくて。
身体がだるい所為か恋しくて。
世話する姿が愛しくて。
「…あったけぇ」
「こっちは暑いわ!離せぇ!」
正面から抱き締めている形の宵織はなおも抵抗したが、より身体を密着させ首筋に頭を埋めるとおとなしくなった。
「…つれぇ」
「…うん、」
「…なぁ」
「うん」
「此処に…いてくれよ」
宵織はため息をついた。
「…わかったよ。この部屋にいるから、せめてこの姿勢からは解放してくれないかな」
「だめだ」
「ええ…」
「離したら…逃げるんだろ」
「逃げないって。」
「嘘だ」
「…はぁ、ならせめて上着を脱いでもいい?皺になるからさ」
「だめ」
「クリーニング代請求するけど」
「それで…構わないから…」
弱くなる語尾に宵織は「明識?」と呼び掛けたが、どうやら明識は眠ったようだった。
「…早く治しなよね」
* * *
明識が寝たのを見計らい脱出を試みた宵織だったが、結果的にそれは失敗に終わり、結局彼女は風邪を拗らせた明識のそばに数時間居座ることを強いられた。
当然の帰結として宵織は明識に風邪をうつされ後日寝込むことになるわけだが、それはまた別の話。
《Take care!》
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