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人通りの少ない道にはいると、一人の少女が立っていた。何かブツブツ言いながら俯いている。
李織はすぐにそれがなんなのか分かった。ならば関わるのは面倒だ。李織は少女の横を無心で通り過ぎようと考えた。
「……ない。……ない」
少女はそう言っているのが分かった。何がないんだ……。そう思いながら見向きもせずに通り過ぎると、少女の声はピタリと止んだ。
嫌な予感がする。
李織は深呼吸した。そしてゆっくりと振り返ろうとした途端、動きを止めた。
いる。すぐ後ろに。心臓が少し早く動き始めた。
「知りませんか……? 貴方、知りませんか……?」
ブツブツと言いながら問いかけてくる。李織はもう一度深呼吸した。
「知りませんか……私の、私の……右腕」
少女が肩に触れてきた。触れられた所がひんやりと冷たくなる。その瞬間、李織は全力で走り出した。
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