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寒い日だった。 男女の二人組が、雨の残るアスファルトを歩いていた。 男はとても寒かった。 手袋もせず、ポケットに片手を入れている。もう片方には、買い物袋が握られている。 亀のように身を固める彼に、彼女は言う。 「急に寒くなったよねー」 「だよな。 あーあ、グーを出してたらなー」 「それだとあたし一人になるじゃん」 「多分荷物持ちで俺が行くな」 「間違いない」 彼女は彼より前にいる。振り返って、笑いかけていた。 見上げれば空は白一色。 それも絵の具を垂らすと直ぐに変わってしまうような水物の白だ。 「ねー、雪好き?」 「そもそもこっちほとんど降らないじゃん」 「あたしはね」 彼女は手袋に包まれた両手を後ろに回す。 「大好きだよ、雪。色んな遊び方があるしね」 「言うほどあるか?」 「いっぱいあるよ、いーっぱい」 彼女は前を向いた。その足取りは軽かった。 彼は首を傾げた。 それから手を出そうとして、寒くてやめた。 「俺はボール使う方が好きだな。雪はいつ積もるか分からんし、あるとこ行くなら遠出になっちまう」 「枯れてるねー」 「なんでだよ」 彼女は立ち止まった。彼も同じように立ち止まった。 手を伸ばせば届く距離。 「雪の方が楽しいよ」 「球技のが楽しい」 ポツリと、雨が落ちた。 空は依然として白かった。しかし見上げた目に雨粒が入ってきた。 「うわ、雨? 急ごう!」 「ちょっ、中身壊れる」 「このままだとびしょ濡れだよ?」 二人は散らされた蜘蛛の子のように駆けた。彼の手元で何か破れる音がしたが、気にしなかった。 白い息を吐きながら二人は扉を押し開いた。 「ただいまー」 「ただいま。はい、注文のお菓子」 屋内に居た友人から軽い感謝を述べられた。 中身を取り出し、落ち着いた彼は腰を下ろす。 だがあざとい友人が不適な笑みを浮かべて彼を見ていた。 友人は言う。 「随分長かったな」 「混んでたんだ」 「そっか。そりゃ運がなかったな」 男は暖まりきった左手を取り出した。 雨は、朝まで続くらしい。
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