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店を出たリュリは大通りを歩きながら考えていた。
「…あれは一体何だったのかしら…」
左の耳に付けてあるイヤリングを触りながら歩く。
考える時の癖だった。
数日前に見た黒い存在。
鴉にしては大きすぎ、人間にしてもあんな高い所から降りたのに物音一つしないのはおかしい。
しかし人間以外考えられなかった。
そういえばちょうどあの日は、世間を騒がせている怪盗が出たらしかった。
「まさかあれが怪盗…?まさか、そんな事ないわ…」
否定しても考えてしまう。
しばらくリュリの頭からはその事が離れなかった。
するとリュリの視界をふと何かが横切った。
それはまさに先程考えていたのと同じ黒、音もたてずに歩いていくそれは……
「…あの時の黒猫…?」
あの時――リュリがあの黒い存在と出会う前、あの分かれ道に座っていた黒猫だった。
野良猫かと思っていたが、よく見ると銀の首輪をしている。
人に慣れているからか、リュリか近寄っても逃げようとしなかった。
「貴方のせいて散々な目に合ったんだからね…」
黒猫の頭を撫でながら呟く。
あの後はっと我に返って、散らばってしまったモノを拾い集めるのはとても骨が折れる作業であった。
黒猫はその赤い瞳でじっとリュリを見つめていた。
すると突然、リュリの手首にあった銀のブレスレットを咥え走り去ってしまった。
「あっコラ、ダメ、返しなさい!」
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