第1話

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第1話

「はぁっ…寒っ」 真夜中、暗い裏路地のわずかな街灯の灯りの中に、一つの影が落ちた。 腕に何かを大事そうに抱え、薄汚いショールを羽織った背中には長い赤毛のおさげが揺れている。 彼女の名前はリュリ・フェルマ・ランフォード。 その風貌からは全く想像できない大層な名前だ。彼女は祖父と2人、下町で雑貨屋を営んでいた。 しかしその祖父も3年前に他界、彼女に残されたのは莫大な借金だけだった。 それを見兼ねた仲のよい喫茶店の主人が彼女を雇っている。 「ううぅっ、まだ秋になったばかりなのにこんなに寒いなんて…早く帰らないと」 夜の冷たい風が彼女に吹き付ける。リュリは顔をしかめて呟いた。 このところずっとこんな天気だ。朝から晩までずっと厚い雲がかかってどんよりとしている。 しかも街では泥棒が出たとかなんとか。 「こんなご時世に金品をかっさらっていくなんて…案外それが一番賢いのかもね」というのが彼女の見解だ。 「そんなにたくさん盗んでたら家の屋根裏までいっぱいでしょうに…それこそ私みたいな貧民に分け与えれば好感度も上がるのにねえ…」というオマケ付きだが。 「近道はいいけど相変わらず暗いし不気味ねぇ…まぁ大通りより静かでいいわ」 その大通りは何があったか、少し前から妙に活気付いていた。
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