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黒い燕尾服を着て白い手袋をはめて庭を進んでいく。
腰に付いている懐中時計を見て、思わず溜息が出てしまう。
足を速め、迷うことなく庭を突き進むと、薔薇に囲まれたスペースに辿り着いた。
そこには誰かが軽食を済ませ、読書をしていた形跡が残っていた。
テーブルを回り込むと、顔に新聞を乗せ、寝息をたてている人物がいた。
「旦那様、いつまで寝ているつもりですか!?休憩時間はとうに過ぎていますよ!!」
この屋敷の執事、ユーリ・ヴォルテールが新聞を取り上げ声を張り上げた。
黒い髪に灰色の目、スッとした鼻筋にきめ細かい白い肌、はっとするほど美しい顔も今は目の前の人物によって歪んでしまっている。
「…んっ…寝ていたら起きるまで起こすなと言っているだろ、ユーリ!!」
と、この屋敷の主人セルスティン・ラファイエットがムクッと起き上がり、怒りを隠すことなく叫び返した。
少しクセッ毛の黒髪は寝癖でさらにうねり、蒼い瞳は寝すぎで少し腫れ、頬にはシャツの跡がくっきりと残っているので、いくら大きな声を出してもまるで迫力がない。
ユーリはそんな主人に呆れながらも言葉を続けた。
「旦那様がしっかりして下さっていたら、自分もこんな心の傷むようなことは致しません。
自分は旦那様のためと思って涙を流し「…分かったから今すぐそれをやめろ!!」
ハンカチで目頭を押さえていたユーリを一喝し、セルスティンは立ち上がった。
「分かって下さればいいんです」
真面目な顔に戻った執事に、少しイライラしながら主は屋敷へと帰って行く――――
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