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「あの日ね、本歌が居なかったのは倒れちゃったからなんだ」
もう日付がかわった夜。
広すぎる家のベランダで、話すのは長男と次男。
「PTSD、だって」
「知らなかった....」
「知らなくて普通だよ、裕陽も風も知らないから」
知られたくない、そう願っていたのは本歌だった。
プライドからでは無く、心配させたくないから
不安にさせたくないから。
「きっと、もう思い出したくないから」
自分の親の死を目前にするのは、辛過ぎる、そう言ったのは本歌本人だった。
双子である自分より、冷静を保っていられて、考えが大人で、
そんな彼を苦しめるには十分過ぎたその記憶。
消すことは愚か、思い出すことさえ困難なその気持ち。
「偶にね、パニック起こすんだ。
幸い僕が居ないときに起こったことはないけど、もし起こって楓が一緒に居たらね、
助けて欲しいんだ」
パニックを起こしたその時、泣いた彼。
何度か泣いている姿を見た事はあったけれど、あんなに泣いた本歌を見たのは初めてだった。
精神について良く勉強する自分だからこそ、分かっていたパニック障害への適応方。
不安を取り除く為、声をかけ一緒に居ることしか出来なかった。
「......弟達に、秘密ね。」
笑って人差し指を唇に立てたその姿に
双子は良いな、
そう小さく思った。
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