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生命の気配を一切感じない荒野を、それでも何か命の灯火を見つけようと見渡していた。
それは現在の風景であり、過去の情景でもある。
生まれた時から変わり映えの無い景色。
変化といえば世界を覆う曇天から振る雨くらいなものだ。
そんな世界に生まれながらも幼き日からミルハは景色を眺めていた。
大した理由はない。
ただ、荒廃していたとしても自然というものが好きだったということだけ。
その日もミルハはただ風景を眺める。
ごうごうと顔を叩く風を感じ、急速に流れる鉛色をした雲を見つめる。
「ん?」
ふと、遠くで何かが動いた。
それに気づいた瞬間、体を駆け抜けた衝撃で無意識で飛び跳ねていた。
たかが生き物を見ただけでと思わなくもないが、実に数ヶ月ぶりに生きた動物を見たミルハにしてみればそれは奇跡に等しいものだった。
「あ、あれって!!」
動く何かに向かってミルハは走り出す。
既に、それが人を襲う危険な生物かもしれないという思考は明後日に投げ捨てている。
あれはなんだろう!?
犬か猫だろうか?
いや、でもそれよりももっと大きい。もしかして、熊かも知れない。
うはっ! 熊とか初めて見る!!
一般的に熊の可能性があるならば刺激しないように逃げるべきなのだが、言ったとおりミルハの一般的な思考は明後日へと飛んでいた。
そして、全速力で荒野を駆け抜けたミルハは数十秒でそれの正体を知ることになる。
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