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果たして走り寄ったミルハの見たのは一人の人間。
身長は目算で百七十センチ後半くらいか。痩せてるわけでもなく、太っているわけでもない。
中肉中背を地で行く一人の男らしい。
身に纏っているフード付の外套により、素肌が見える部分は手先だけと少ない。
しかしその手に皺などはなく、その男がまだ若い年齢であることがわかる。
が、ミルハにとっては男の外見などもはやどうでもいい。
傍からでもわかるくらいに大きく肩を落とし、落胆のため息を盛大に吐き出していた。
「はぁー……」
人間かよ。熊かと思ったのにな。
この際、どんな動物でも良いから見たかった。
大きな括りとすれば人間も動物には当てはまるのだが、ミルハにとってそれはもちろん論外だ。
彼が見たいのは野生の生物。
それは強く、美しい生命の形。
「えっと、キミは?」
打ちひしがれ下がっていた頭に声が届く。
優しく柔和な、包み込まれるような声音。
頭を上げれば外套の男がまっすぐにミルハを見ていた。
やはり露出している部分が極端に少なくわからない事は多いが、フードの下に隠れていた表情は少しだけ見ることが出来た。
その顔はさっきの声音の主と認識させる何かを持っているようだった。
肩を落とすミルハを見て困惑しているのだろうか。その表情には困ったように、けれど安心させるように小さな笑みが浮かんでいる。
決して軽薄な笑みなどではない。
相手を本気で心配している、そんな優しさが滲み出た笑顔。
心配そうに覗き込んでくる瞳を見返せば、それは青空に吸い込まれるような錯覚さえ持たせる鮮やかな青色。
フードの端から少しだけ見えた髪はそよ風をイメージさせる薄緑色をしていた。
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