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「ミルハ、なにをしているのですか?」
ふと、背後から聞こえた声に振り返る。
そこにいたのはミルハの母、デューリスだった。
腰まで届きそうな薄小金色の髪は、太陽の光を反射し煌びやかに輝く。
長年の苦労からか表情には小さな皺が出来初めているが、まだまだ十分に綺麗だとミルハは息子としての贔屓目を差し引いて思っている。
「ちょっとだけ、この景色を眺めてた」
自分から再び視線を外し、遠く風に靡かれる数本の木々や急速に流れ行く雲に目を向けた息子。
その横顔に覗く真意を母親は理解しようと思いを巡らす。
「行きたくは……ないですよね」
目の前に立つ、数日前に二十歳を迎えたばかりのまだまだ頼りない息子。
その子はこれから、遠い遠い世界へと旅立つ。
現在の世界の命運をその両肩に乗せ、今世界に生きている数千万人の希望を背負いながら彼は一人歩んでいく。
そんな過酷な旅に赴く息子に、母親である私がしてあげられることは少ない。
きっと数日分の保存食などを持たせ、遠い世界へと送り出すことだけ。
送り出したあと、息子はどんなに困難に打ちひしがれ様と帰ってくることはできないだろう。
ちょっとの仕度の準備と片道切符。
そんなものだけが、母が息子に贈ることの出来るものだった。
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