第弐拾弐章:継承五丈原

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 横に目をやると、同じように胡遵の騎馬隊も駆け上がっていた。  おそらくさらに横では弓騎馬も続いているだろう。  頂上の『呂』と『李』の旗は変わらず堂々と立っている。  しかし、駆け上がったとき、そこには誰もいなかった。  ただ旗がたなびいているだけである。  そして、眼下のはるか向こうで騎馬隊が駆け去っていた。  先ほど仕掛けてきた燕循の旗もある。 「死してなお、魏軍を振り回すか」  胡遵が呟く。  誰が死んでから、とは聞き返さなかった。 「天才という言葉では足りない。天下の奇才と呼んでしかるべきだ」  夏侯覇の呟きも、誰が主語か聞き返さない。  聞く必要がないからだ。 「降りよう。消火が追いつかないほど火の回りが早い。ここも火に包まれる」  岳真が言うと、二人が頷いた。  追撃しようとは言わない。  呂家軍とは、力の差は歴然だった。  ここから呂家軍までの距離が、自分と呂家軍の力の差なのかもしれない。  もっと力をつけよう。  李祥のように、経験を積み、知識を積み、自他ともに鍛え、いつか呂家軍に追いつくように。  去りゆく呂家軍に、岳真は背を向けた。          第三部[神童李祥篇]完
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