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横に目をやると、同じように胡遵の騎馬隊も駆け上がっていた。
おそらくさらに横では弓騎馬も続いているだろう。
頂上の『呂』と『李』の旗は変わらず堂々と立っている。
しかし、駆け上がったとき、そこには誰もいなかった。
ただ旗がたなびいているだけである。
そして、眼下のはるか向こうで騎馬隊が駆け去っていた。
先ほど仕掛けてきた燕循の旗もある。
「死してなお、魏軍を振り回すか」
胡遵が呟く。
誰が死んでから、とは聞き返さなかった。
「天才という言葉では足りない。天下の奇才と呼んでしかるべきだ」
夏侯覇の呟きも、誰が主語か聞き返さない。
聞く必要がないからだ。
「降りよう。消火が追いつかないほど火の回りが早い。ここも火に包まれる」
岳真が言うと、二人が頷いた。
追撃しようとは言わない。
呂家軍とは、力の差は歴然だった。
ここから呂家軍までの距離が、自分と呂家軍の力の差なのかもしれない。
もっと力をつけよう。
李祥のように、経験を積み、知識を積み、自他ともに鍛え、いつか呂家軍に追いつくように。
去りゆく呂家軍に、岳真は背を向けた。
第三部[神童李祥篇]完
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