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見慣れた玄関のドアを勇太は勢いよく開けると、私を連れて奥の和室へと駆け出した。
「パパ、僕...えらい?」
そう言って、勇太は私の白黒写真の前に、虫かごを持ち上げた。
そうか...思い出した。
その瞬間、浩介の失われていた記憶が、全てよみがえった。
私は死んだのだ。
美術館の帰り道...早く家族に、自分の絵が展示されることを伝えたいあまり、私はスピードを出しすぎていた。
後少しで家路につく...というときに、横から急に現れた猫を避けようとした私の車は大きくスピンし、そのまま壁に激突した。
体は既に、ピクリとも動かない。
意識が朦朧とする中、死を覚悟した私の頭には、一つの後悔だけが残っていた。
勇太と交わした昆虫採集の約束...
あの絵のように、笑った勇太の顔がみたかった...
.......
...
.
その願いが、まさかこんな形で叶うとは...
浩介は、写真に向かって自慢する我が子を見て、声を上げて泣き出した。
「パパもきっと、天国で勇太のこと褒めてるわよ。ね?」
「うん」
勇太は嬉しそうに虫かごを覗いた。
「ミーンミン...」と、セミが元気よく鳴いていた。
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