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でも、諦めるのはまだ早い...
というより、何も始まっていないんだ。だったら、当たって砕けてやれっ。
そう思い、勇気を出して彼女の番号をプッシュした。
通話口から、どこかで聞いたことのあるメロディが流れていた。
何の曲だったかは思い出せない。もとい、そんな余裕はない。
緊張が高まる中、息を飲んで出てくれるのを待っていたのだが、無情にもメロディーの一番が終わりを迎える。
仕方がないか...と、諦めて切ろうとしたときだった。
"もしもし..."
小さな声が聞こえ、慌てて携帯を耳に戻した。
『も、もしもし...』
"和也君?"
『そう。僕...です。ごめんなさい、急に電話して。迷惑だったかと思ったんだけど』
"そうね...迷惑だったかも"
彼女が小さく呟いたのが聞こえ、僕は青ざめた。
余りにもストレートに告げられ、声を失い、話すことも切ることも出来ない。
頭が真っ白になり、瞬時に電話をかけてしまったことを後悔した。
"なぁんてね。嘘よっ、嘘"
『えっ、う、嘘?』
"嘘に決まってるでしょ。ちょっと意地悪してみただけ。ビックリした?"
電話ごしから、明るい声が聞こえてきた。
八重歯を出して、悪戯っぽく笑う彼女の姿が目に浮かび、僕の心も一気に明るくなった。
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