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この絵も、もうすぐ完成する。
後は、この虫かごの中をどう描くか...
最後まで頭を悩ませたが、結局なにも描かないまま、浩介は筆を置いた。
「これでいい」
あえてなにも描かないことで、これから勇太を昆虫採集に連れていく...というメッセージを込めたつもりだった。
勿論、そんなことは他人からすればわかることではないが、そこは自分なりの意思表示でもあった。
浩介は、満足のいく作品を前に笑顔で頷くと、自分の腕時計に目を向けた。
「よし、まだ間に合うな」
時刻は、十六時をまわったところ...
美術館は、まだ開いている。
浩介は、まるで赤ん坊を扱うように、絵を丁寧に包み込むと、車のキーをズボンの右ポケットへと押し込んだ。
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