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桜舞い散る庭園には太陽に照らされた水に反射する光がキラキラと輝いてる。
その光が眩しくて、あの日のように私は目を細めた。
「麻衣ちゃん、もう受験勉強始めてるんだって?」
ニッコリと微笑みながら私を見上げた姫香さんに
「はいっ!
先輩と一緒の大学行きたいので…」
「そっかー。
二人も心強い未来のお医者さんがいれば私もきっと長生き出来るわね」
「はいっ!頑張りますっ!」
力強く言った私に姫香さんはクスクスと笑った。
「おーい!お待たせー!!」
嬉しそうにスキップして来る弥勒さんと、それを呆れたように眺めながら歩いて来る響先輩の姿に、私と姫香さんは再び顔を見合わせて笑った。
「さて、そろそろ帰るぞ」
そう言った響先輩に、弥勒さんが
「えーもう帰っちゃうのかよー?」
とダダをこねる。
「弥勒、響だって早く麻衣ちゃんと二人だけになりたいんだから我儘言わないの」
姫香さんの言葉に、弥勒さんは
「チッ」
って舌打ちしてる。
「また遊びに来ますね」
ニッコリ笑って言った私の言葉で、ようやく弥勒さんはご機嫌を直して微笑んだ。
「じゃーな。姫香が冷えちゃうから早く病室戻れよ。
じゃ、麻衣、行こう」
そう言って私の手を握った響先輩に私も頷いて歩き出した。
病院から出て少し歩けば、あの通学路。
1年前、ここで初めて響先輩と出会った日の事を思い出しながらゆっくりと歩いた。
「先輩…」
「…先輩って誰?」
「はっ?」
まただ…。
どうしても響先輩を呼ぶ時、私は『先輩』って呼んでしまう。
途端に不機嫌になる赤い髪。
「ひっ…ひっ…」
「あ?!」
…まるで脅されてビビってるみたいな会話に、私はふーっとため息をついた。
「ひびき…」
「ん?」
「あのね…」
舞い散る桜の木の下。
「大好きだよ…」
立ち止まって私を見つめた響先輩がクスっと微笑んだ。
「だから…
先に言うなっつーの、アホ」
ぎゅっと抱きしめられた胸の中…
二人が出会ったこの場所で…
ゆっくりと触れた唇に、私はそっと目を閉じた。
------ END ------
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