side:海

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でも、もう、高也に晩御飯を作ることも、一緒にご飯を食べる事も無いだろう。 だって、高也には美海がいるから。 美海は俺と違って手先が器用で、なんでも作れて、それがすごく美味しかった。 きっと、美海の美味しい料理を食べたら、俺の特に美味しくもない料理の味なんて、すぐに忘れてしまうだろう。 それに、俺との食事の時間の記憶も、美海との楽しい食事の時間の記憶にすぐに書き換えられてしまうだろう。 俺はあの楽しかった時間を一生忘れることはないだろうけど。 「はあ」 あれこれと考えて、悲しさや苦しさが増して来て、気を紛らわせたくて、深いため息を吐く。 だけど、その思いは消えてくれない。 それどころか、リビングにいると、高也とそこで過ごした時間が細々と思い出されて、さらに苦しくなってくる。 この場所から立ち去りたい。 早く苦しさから解放されたい。 そう思った俺は、電話機の近くに置いてあったメモ用紙と、ボールペンを借りる。 “ありがとう、楽しかった。 さようなら。    海 ” そして、震える手を必死に動かして、短く、それだけ書いた。 幸せになってね、とは嘘でも書けなかった。 分かりやすいように、メモ用紙と合い鍵を、高也がいつもご飯を食べている場所に置く。 「っ……。」 しかし、その時に、ついに、こらえきれなくなって、涙がボロボロと溢れ出した。 止めようと必死になるけれど、涙は止まってくれなくて。 むしろ、止めようと思えば思うほど、涙はさらに溢れ出して、机の上に小さな水たまりを作ってしまう。 「たか、やっ、大好き、だった、よ、本当、本当、好き、だった……!」 俺は高也に対する気持ちをすべて吐き出すように小さい声でそう言うと、止まらない涙はそのままに、逃げるようにして家を出た。 吐き出した言葉と一緒に、高也に対する恋心も俺の中から出ていけばいいのに、なんて思いながら。 side:海 END NEXT side:高也→
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