エッグスカラー

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どこかで、話を突っ込むチャンスを作る。そう思っていた矢先に、中村が封を切った。 「で、先生。なんですか」 「……死にたいってのは、なんだったんだ。あの後お前の学校で自殺者が出ただろ。なんか関係あるのか」 「ああ、それ、ですか。クラスメートだったんですけどね、彼」 中村は抑揚なく言って、ため息と取れなくもない息を吐いた。違和感がなかった。恐ろしいほどに違和感がなかった。冷たい鉄の、しかも非常識なほどに軽い言葉だった。クラスメートが死んだのなら、もう少し何かあってもいいんじゃないか。僕自身がそう思っているのに、僕も、その抑揚のない言いざにをまったくと言っていいほどに違和感を持っていなかった。山岡が死んだとき、僕自身もっと、もっと、何かを、……感じていただろうか。僕も、無表情に「それ」と言い放たなかったか。卵の中身はゆるゆると鉄板に流れ出て、それを僕はじりじりと真っ白に焼き殺さななかったか。 「僕も死にたいですけど。生きていてもこの先何もないだろうし」 そう言った中村の腕には、薄い線が何本も、何本も刻まれていた。死にたいのは、何もクラスメートだけじゃなかったんだ。なあ、そうだろ。なんて、僕には聞けなかった。
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