エッグスカラー

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まるでビリヤードのように授業は展開していく。最初から九番を狙える時もあれば、一番から順序良く落としていかなければならないこともある。まるでナインボールだ。僕はゆるゆるとボールを落とす経路を作るようにヒントを上げていく。 「愛の付く言葉を上げていってみようか」 「……恋愛、愛情、あと、あ、性愛とか」 「性愛か。性愛ね。じゃあ『K』と『先生』の間に……」 穏やかに授業は進んでいく。そう思われた。その空気が破られたのは、もう、あと十分もすれば授業が終わるという頃だ。 じゃあ、来週の、とか言ったのかもしれない。終わりオーラが教室に充満して、宿題を二三、出した後、教材を整理しだした時に、「ちょっと」と、中村から声がかかった。 「先生、俺、死にたいんですけど」 瓢箪から駒が出る。咥内から世界に向けて、ぽろっと、唐突に、その言葉は投げ出された。 「……いや、なんでもないです」 「あ、おお、うん」 机の上からカタンとホワイトボードマーカーが落ちた。呆然としている僕に、中村は少し腰をかがめてマーカーを拾うと、 「先生。授業終わったから」 そのまま僕の胸ポケットにそれを入れ、返事も何も聞かず教室から出ていってしまった。ぼうっとしたまま抑えた胸ポケットの中には、マーカーと、銀色の小さな指輪が入っていた。
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