エッグスカラー

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それからというもの、僕は最悪だった。その日だけじゃない、もう、ずっと最悪だ。目玉焼きの目玉は割れるし、録画していたドラマを間違って消してしまうし。有名なアイドルが主演の、学園ほのぼの系。あの手のドラマのキャラクターはコミュニケーション力が過剰だ。 それに、近くの高校で、飛び降り自殺が起きた。これが一番最悪だった。朝方に電話をもらい、そのことを聞いた時には、誰にも言えない秘密だが涙が流れた。そりゃそうだ、自分の生徒に死にたいなんて言われて、それで”そんなこと”まで起きて、整理がつくわけがない。結局亡くなったのは聞いたこともない名前の男子だった。 「気にしすぎよ。高校生の男子なんて誰だって死にたいとか言ってみたくなるものよ」 都内の飲み屋に来ていた。気持ちの沈んだまま、メールのやり取りをしていたら、久しぶりに会おうということになったのだ。ガヤガヤと煩い店内に、長い黒髪の寺内洋子が映える。大学卒業以来会っていなかったが、ずいぶんと綺麗になったもんだ。昔は化粧もろくにできない文系根暗女子まっしぐらだったのに。その隣には高校、大学と同じサークルだった牧瀬純一。仲は良かったが高校時代には同じクラスになることはなかった。 「お前も俺もあったじゃないか」 こいつもうだつの上がらない奴だったが、おととしあたりに洋子とゴールインを果たしたらしい。あ、ということは洋子はいまや牧瀬洋子か。洋子は純一の、純一は洋子の、どこに惚れたんだか僕には見当がつかないあたり、お似合いなんだろうな。
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