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「けどだな。思春期真っ只中の高校生がそういうことを言うのには、少なくともぼくには理由がだなぁ」
言葉がうまく出てこないのはきっとビールなんて飲んだからだ。麦臭くほろ苦くてかなわない。悪酔いだ。悪酔い。
「自殺と言えば、俺らの代も自殺した奴が一人いたよな」
「いたっけ。覚えてないわ」
「お前覚えてないのかよ。結構騒ぎになったんだぞ。校門にブルーのシート張られてさ」
「純一、洋子が覚えているわけがないだろ。お前と同じ学校に行ってたのは俺だぞ」
夏の、しかも卒業した後の話だ。大学に入って、そろそろと高校時代の友達と疎遠になりだしたころだった。僕と同じクラスだった山岡が、自殺したのだ。校舎の屋上。中途半端な高さは山岡を即死には導かなかった。山岡は肉体という器から、血液という命がゆるゆると溶け出ていくのを見ながら死んだのだろう。丁寧に遺書まで置いてあったそうだ。鶏が先だったよと、書かれていた。何のことだ。
僕は山岡とはさして仲がいいわけではなかった。といってももともと友達の多いやつじゃなかったから、山岡からみれば仲のいい方だったかもしれない。山岡は口数の少ない割にいろいろなことを考えて喋る人間だった。口数が少ないからこそと、言えるかもしれない。
物事を考えすぎる奴だったからか、口癖は死にたいだった。それだけははっきり覚えている。山岡が死んで、ショックはあまりなかった。奴は死ぬといっていた。読まなくなった本が、いつの間にか消えているようなものだ。ただ、今になって読み返したい本かもしれない。
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