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「・・逃・・げろ・・」
父親は先ほどよりも弱くなってしまった声で少年に伝える
「父さん・・でも!」
「生きて・・くれっ・・強・く・・」
その言葉が最後だった
父親は目を閉じた
もう動かない、もう何も言わない
「・・ごちそうさま」
獅子の怪人はそう言うと掴んでいた少年の父親をゴミのように放り捨てた
比較的高い、若い男の声
「これ、みんな死んでるんだよ」
辺りに倒れている人間達のことを言いながら少年にゆっくりと歩み寄る
少年の頭の中では父親の最後の言葉が数秒のうちに何回も何回もループしていた
「・・・!」
そして走り出した
(父さん、母さん・・)
誰かの死体を踏んだような気がした
涙が驚くほどに溢れて来た
視界がぼやける
もはやどこを走ってるのかも、ちゃんと真っ直ぐ走れてるのかもわからなかった
耳に聞こえるのは自分の荒い呼吸だけ
「っ!」
頭の中がぐちゃぐちゃに散らかったまま走っていた少年はうつ伏せに転んでしまった
「痛っ・・」
「もう諦めなよ。君たち人間が悪いんだ」
後ろから声が聞こえた
あの獅子の怪人の声だ
少年の頭に再び父親の言葉が響いた
(逃げなくちゃ・・)
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