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ザァァァ…… 湿った風が木々を揺らし、綺麗に手入れされた庭園を撫でていった。 いつもなら真っ赤な夕日が世界を染めている時刻。 しかし、今日は薄暗い雲がたちこめていた。 ゴロゴロと低く雷鳴が低く唸る。 垂れ下がった雲からはもうまもなく雨粒が落ちてくるだろう。 手入れされた庭園には、立派な邸宅がそびえていた。 その部屋の中の空気もとても重たいものだった。 「理由を聞こうと思ってな」 ゆらゆらと不安定な炎が机の上を照らしていた。 数冊の本が積まれた机に、見るからに不機嫌そうな顔で少年がいた。 いかにも尊大な態度で。 そして、炎の揺らめきは、対面の男の影も映し出した。 見上げる程の長身に特徴的な黒い髪は背中で束ねられている。 少年の前に立つ、しかし控え目な雰囲気の男は、使用人であろうかと予測ができた。事実、男は従者であり、少年は主であった。 そう、つい先日までは……。 「次の職場への紹介状が必要だろう?」 少年の声は、命令することに慣れていた。 「呼び出された理由はそれですか」 低く、深い声が返事をした。 その声は固く冷たい。こんな他人行儀な声を少年は男から初めて聞いた。 「お前が辞めようと僕には関係ないが、家の従者として預かったのだから、主として聞く権利は持ち合わせているぞ。それに、マクレガー家の元従者を何の保証もせずに家から出したなんて、世間体が悪い」 その時代、貴族である「持てる者」は、労働者階級にある「持たざる者」への奉仕を行って当然であった。 使用人の辞職後の対応もまた、しかり。 少年の名はロー=マクレガーと言った。貴族の中でも名家と言われるマクレガー家の一人息子であった。 そして対面にいるのは、ローが幼い頃から一緒だった従者のジャスティン=メイフィールド。 両親が社交や舞台、奉仕や若い愛人などに飛び回り家を空けている時に、ずっとローの側にいた兄弟みたいな存在であった。 そのような存在だと言うのに、ジャスティンはほんの2日前に突然辞職を申し出てきたのだ。 これには裏切られた思いがした。 辞職の旨を告げられジャスティンは薄情にも、顔を出すこともせずにすぐに荷物を纏めて家から出て行ってしまった。 ローはどうすることも出来ずに、その姿をずっと部屋から見ていた。 正執事はすぐに替わりを用意すると言ってくれたが、ローはまだ納得していなかった。
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