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従者の主はローであった。賃金はローの父である当主が払っていたが、従者の全てはローの物だった。
「お前は、まぁそこそこ有能だ。紹介状さえあれば、我が家と同じランクの屋敷にも仕えられる。これからを考えれば必要だろう?」
ローの口から出るいかにもジャスティンを気遣っているという言葉。だが、それはローの本心ではなかった。
本当は……、
理由が知りたいのだ。
家族だと思ってずっと過ごして来た。誰がいなくても、彼だけはずっといてくれると思っていたから。
何も聞かされずに、居なくなるなんて許さない。
ローは整った人形のようなジャスティンの顔を見た。
彼は、この部屋に入ってから一度も視線を合わせようとしない。
そして、今も足元を見ながら微かに笑う。
「再就職は、必要ありません」
笑顔というより、自嘲するような冷めた笑み。
ローは、苛々した。
「じゃあ、これからどうするつもりなんだ? どうやって金を稼ぐ? 労働者階級は働かなければ生活できないんだぞ?」
身分の差を出して、強調した。この家にいれば、それなりの好待遇が受けられるのに。
ジャスティンの態度は冷たく、距離を感じた。他人のように。
「ここを辞めて、田舎に帰ろうと思っています。小さいですが、叔母の農園を手伝うつもりです」
ようやく、ジャスティンは今後のことを話はじめた。
その様子にローは少し安心する。
「そう……か。しかし、農園とは何だか意外だな」
ふぅ…とため息をついて、詳しく聞こうとする。
理由が深刻なものではないなら、引き止めることも可能かもしれない。
「ぶどう畑と果樹園を所有しています。叔母の家に男手はありませんから、いとこのシルヴィーと結婚して家を支えるつもりです」
淡々とした声でジャスティンは語る。
「結婚……」
ローはその言葉に軽くショックを受けた。
ジャスティンは本当に行ってしまうのだ。未来を決めて、今までとは全然別の、ローが存在しない場所へ。
ずっと隣にいると、思っていたのに。
ローの心情を表すかのように、窓の外に激しい雨が降ってきた。ガタガタとガラスが揺れる程の雨と風。
「降り出しましたね」
静かに、ジャスティンが言った。
激しく打ち付ける雨に、ローの気持ちが弱くなる。
ローは大雨と雷が嫌いだった。それは子供の頃からだった。
そんな夜は、決まってジャスティンを部屋に呼んで、一緒に眠るように言ったりもした。
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