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もう、これ以上あの目を見てはいけないと自分に言い聞かせる。
どこか、安全な場所。ジャスティンの手が届かない場所。内側から鍵が掛かればきっと閉じこもれる。
走りながらそう考えるが、混乱していて上手く思い出せない。
それでも、考えを巡らせて、唯一思い出したのは、地下のワインセラーだった。
あそこならば、頑丈な鍵がある。
走って走って、ようやく地下へと入ると、目指すワインセラーのドアを開いた。
すぐにドアに飛びついて、内側から鍵をかけた。
これで……、誰も入ってこれない。
ジャスティンの足音は聞こえて来なかった。
「はぁっ……」
ようやく安心して、ため息をつくと、全身から力が抜けて、ずるずるとドアにもたれた。
息が荒い。喉が苦しい。血を出しているわけではないのに、喉に血の味がした。
何故自分がこんな目に遭っているのかがわからなかった。
嵐の夜なんて、大嫌いだ。家族のように暮らしていたのに、急に変貌するジャスティンも、大嫌いだ。
こんなことになるなんて、思いもしなかった。
ジャスティンはこれまでローに与えられたもので、最強の所有物であった。
ローが命じれば、彼はどんなことも叶えてくれる忠実な下僕であった。
ジャスティンはただ、ローの為だけに存在しているとでも言うように……。
なのに。
「っ……」
何がいけなかったんだろう?
悔しくて、悲しくて、心細くて、涙が溢れる。
ワインセラーの床は石で少しひんやりとしていた。
唐突に、扉が音をたてた。
ガチャガチャとノブが回される。
「ひっ!?」
思わず扉を抑えた。
「ロー様。そこですね?」
扉の外から響いたジャスティンの声。咄嗟にローは口を押さえて、吐息すら噛み殺した。
どこかに、行ってくれ!!
そう願うけれど、ジャスティンは去ろうとしない。
それどころか……、先程の悲鳴でローがいるのを確信しているのだ、当然のように語りかけてきた。
「ここを開けてください。こんな寒い所にいたら、お体に障ります」
そう気遣う声は、優しい。まるで、昔のように……。
ガチャガチャと何度もノブが回される。
ここも、絶対的に安全ではないかもしれない……。
逃げなければと思うが、いざとなると頭も体も動かない。体が強張っている。だからローができたのは、ぼんやりとノブを見上げるだけ。
「ロー様。どうか、開けてください」
声音は宥めるようなものになっても、動けなかった。
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