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「ロー様」 困ったような声。何度も聞いたことがあるから、彼が今、どんな表情をしているか、わかる。 あの切れ長の瞳が、わずかに細められて思案を巡らせているのだろう。 そうすると、彼の隙のない雰囲気が僅かに崩れて、年相応な顔になる。それを気に入って、ローはたまに我が儘を言っていたのだ。 「…………」 ぼんやりと考え事をしていて、自分の置かれている状況を忘れていた。 扉の外のジャスティンは無言だった。 諦めたのだろうか? ようやく、ほっとしかけた所で……。 ドンっ 目の前の扉が、鳴った。 ドンッ、ドンッ!! 何度か音は響いた。何をしているか、ローにもわかる。 ジャスティンがその身を使ってドアを破ろうとしているのだ。 見ているうちに、古い木製のドアはミシミシと歪んで、壊れて砕け落ちた。 「っ!!」 慌てて立ち上がり、ワインが並んでいる奥の棚へと身を隠した。 砕けたドアの破片を踏み締めた足音がすぐに聞こえた。 コツンコツンと、ジャスティンの靴音が響いてきた。 それに伴って、不安定に揺れるランプの灯。 ぐるりとワインセラー内を、灯りは照らし出した。棚に沿うようにローは身を固くした。 棚は年代順に並んでいる。静かに移動して、ジャスティンから逃げるしかない。 暗闇に馴染んできた目は、薄暗い室内の様子がわかる。 震える体を抑えて、そっと足を踏み出す。 ジャスティンの居場所とも言えるランプは、先程までローがいた所を照らしている。 ドクドクと脈打つ激しい鼓動と息を吸う音すら、ジャスティンに届きそうで、ローは両手で口を抑えて、ワインセラーの入口へと足を運んだ。 一瞬、灯りが自分のすぐ後ろを照らした気がして、慌てて逃げだそうとした。その時! ガッ! と、何かに足を取られて無樣にも床に転がった。 「っう!」 何につまずいたのか、それはドアの残骸だった。 その木片に手を付いた時に、鋭い痛みが右手に走った。 早く逃げなくては! 立ち上がろうとした時に、ぐいっと右手が引き寄せられて、引きずり寄せられた。 「っ!!」 捕まった恐怖に身がすくむ。 薄暗いが、すぐ近くにジャスティンの顔があった。体温を感じられる程に、近い。 「こんな所に隠れるから……」 ふうっと従者の顔でジャスティンはため息をつく。
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