6人が本棚に入れています
本棚に追加
「ロー様」
困ったような声。何度も聞いたことがあるから、彼が今、どんな表情をしているか、わかる。
あの切れ長の瞳が、わずかに細められて思案を巡らせているのだろう。
そうすると、彼の隙のない雰囲気が僅かに崩れて、年相応な顔になる。それを気に入って、ローはたまに我が儘を言っていたのだ。
「…………」
ぼんやりと考え事をしていて、自分の置かれている状況を忘れていた。
扉の外のジャスティンは無言だった。
諦めたのだろうか?
ようやく、ほっとしかけた所で……。
ドンっ
目の前の扉が、鳴った。
ドンッ、ドンッ!!
何度か音は響いた。何をしているか、ローにもわかる。
ジャスティンがその身を使ってドアを破ろうとしているのだ。
見ているうちに、古い木製のドアはミシミシと歪んで、壊れて砕け落ちた。
「っ!!」
慌てて立ち上がり、ワインが並んでいる奥の棚へと身を隠した。
砕けたドアの破片を踏み締めた足音がすぐに聞こえた。
コツンコツンと、ジャスティンの靴音が響いてきた。
それに伴って、不安定に揺れるランプの灯。
ぐるりとワインセラー内を、灯りは照らし出した。棚に沿うようにローは身を固くした。
棚は年代順に並んでいる。静かに移動して、ジャスティンから逃げるしかない。
暗闇に馴染んできた目は、薄暗い室内の様子がわかる。
震える体を抑えて、そっと足を踏み出す。
ジャスティンの居場所とも言えるランプは、先程までローがいた所を照らしている。
ドクドクと脈打つ激しい鼓動と息を吸う音すら、ジャスティンに届きそうで、ローは両手で口を抑えて、ワインセラーの入口へと足を運んだ。
一瞬、灯りが自分のすぐ後ろを照らした気がして、慌てて逃げだそうとした。その時!
ガッ!
と、何かに足を取られて無樣にも床に転がった。
「っう!」
何につまずいたのか、それはドアの残骸だった。
その木片に手を付いた時に、鋭い痛みが右手に走った。
早く逃げなくては!
立ち上がろうとした時に、ぐいっと右手が引き寄せられて、引きずり寄せられた。
「っ!!」
捕まった恐怖に身がすくむ。
薄暗いが、すぐ近くにジャスティンの顔があった。体温を感じられる程に、近い。
「こんな所に隠れるから……」
ふうっと従者の顔でジャスティンはため息をつく。
最初のコメントを投稿しよう!