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「眩し・・・」
やっとの事で登りきった先に見えてきた、光。
暗闇に慣れていた目には酷な程に眩しい世界に、葵は瞬時に顔を顰めた。
深く青い空、緑に埋まる地、白い羽を持つ人々。
全てが葵にとって眩しすぎた。
「何惚けてんだよ。行くぞ」
「惚けてない。あんたの顔面より遥かにマシ」
「おい・・・」
行き先なんて知りもしない筈の葵が、シエルを追い越し足早に歩き始める。
時折感じる、視線。それは痛いほどの哀れみと、蔑み。
それもそうだ。真っ白だった服も、今や何色か分からないくらいに煤けている。
髪だって、顔だって、心だって。
痛い視線を浴び、足が止まる。俯いたままの葵に、シエルが軽く頭を叩いた。
「お前臭い。話す前に風呂入れ」
「じゃあ、風呂くらい完備にしてよ」
「お前が壊したんだろうが!それも十三回も!」
歩きながらも言い合う二人に、周りの人々は興味の目を向ける。と、同時にシエルへ駆け寄る人物。
「シエル様!」
声がした方向を見ると、そこにはリルの姿。明らかにお怒りの様子。
「どうした?リル。運動でもしてきたのか?フラフラじゃねぇか」
「誰のせいですか!!」
物凄い剣幕でシエルに突っかかっていくリル。
先程シエルがやらかした事により、別に自分に非がある訳でもないのに言い訳をし、頭も体も爆発寸前。
その元凶ともいえる人が目の前に。さぁ、あなたならどうする?
「まぁ、毎度の事なんで慣れましたけどね」
モノクルを中指で押し上げ、冷静な眼差し。
さすがのシエルも今回ばかりは掛かってくるのでは、と身構えたが。
「・・・それで、その方が例の少女、ですか?」
「あぁ。色々話す前に準備がしたい。先ずは、風呂の用意をしてくれ。話はそれからだ」
「御意」
「服、靴、その他諸々はお前の趣味に任せる。あー、あとな・・・」
「食事、ですね?」
「流石だな。後は頼む、俺様は煩ぇジジィ共に理由つけてくる」
そう言うと颯爽とその場から立ち去るシエル。
「では、えぇと・・・」
「葵。あんたは?」
「リルと申します。シエル様に任されましたので、私めがご案内させて頂きます」
いつもの優しい笑顔で紳士的に。さすがの葵も、中々暴言というものが出てこない。
左手を胸元に、右手を前に出し、エスコート。おずおずと葵も手を乗せ、歩幅を合わせてくるリル。
「・・・シエルならこんな事絶対しないな」
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