一話

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「なん、何だ・・・リルか。脅かすなよ!!」 相当驚いたのか、胸に手をやり息を荒らげ怒り狂うシエル。若干、涙目だ。 「シエル様こそ、こんなところで何をやっていらっしゃるのですか?常に座って踏ん反り返っている貴方が」 「毒舌にも程があるぞ、リル」 「それは失礼。ですが・・・」 続きを言おうとしたリルの目に飛び込んだ、シエルの切なげな表情。 それは何年仕えようと見た事がない苦しくも、儚い笑みだった。 「リルは知らないと思うがな。約束しちまったんだ・・・あいつと」 強く結ばれた掌。滴り落ちる赤が、汚れのない真っ白な床に跡を付けた。 苦虫を噛んだような表情のシエルに言葉が詰まってしまったリル。 「シエル・・・様」 「・・・という訳でぇ、今からやる事は見て見ぬ振りしてくれ。俺様からの一生のお願いだ」 「・・・・・・は?」 どう言葉を掛けて良いか分からず、手探りしようとしていた直後のことだった。 いつも通りの表情、いつも通りの上から目線。いつもと違うのは〈一生のお願い〉を使ったくらいだ。 「俺様からの一生のお願いを聞いたんだ。約束してくれるよな?な?」 つい数分前の顔は何処へやら。いつもの皮肉、かつ腕組みスタイルに逆戻り。 「えぇ・・・と。何をやるおつもりで?」 「見てりゃわかる」
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