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「はぁはぁ……。自分、何しとるんや?」
絵夢の前に立っているのは、先程まで寝ていると思われていた山崎である。彼の右手が絵夢の左手の甲を叩いたようだ。自分の事でいっぱいだったため彼が起きていた事に気がつかなかったようだ。
「わいが寝たふりしておったら……。ほんま……」
山崎は肩で息をし、絵夢を見下ろしている。絵夢は手を押さえたまま顔を上げた。
「何しとるんや? って聞いとるやろ? 答えや!」
怒気の孕んだ山崎の声に絵夢は、顔を強張らせ彼に背を向け小さい背中を更に小さく丸めた。
(……山崎さんにも嫌われちゃったな)
「黙っとらんで言いや! わいは自分みたいに人の心を読めんのや、言わな分からんで?」
「嫌……なの……。山崎さんだけには……嫌われたら……どうし……ヒクッ……わか……ウウ……だから――」
一生懸命、声を詰まらせながらも気持ちを山崎に伝える。山崎は一つ息を衝き、後ろから絵夢の肩を掴み自分のほうに引き寄せた。
「そないな事で自害しようとしとったんか?」
山崎は腕を絵夢の前へと持っていき、まるで大事な物のを守るかのように、優しく抱きしめる。その声は先ほどまでの怒気はなく、どこか呆れたような悲しげな声だった。
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