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あても無く歩いて、およそ30分が経った。
周囲は相変わらずの荒地で、何の代わり映えもしない。
時折、不自然に大きな岩が立っているのを見かけることはあるが、それ以外に特に目を引くものは無い。
「(休憩でもするか)」
と、近くにあった大岩の影に腰を下ろしたとき、背後から野太い声が響いた。
「そこにいるのは、誰か!」
はっと気づいてまずは右を振り返り、続いて左を確認するが人の姿は見当たらない。
「岩の向こうにいるのであろう!出てくるがよい!」
俺はその呼びかけに答えず、息を潜めて様子を窺った。
得体の知れないこの場所で、不用意な行動をするほうが危険だ。
「ならばこちらから行くまでだ」
男はどうやら、岩の右側から近づいてくるようだ。
俺はこっそりと、岩に背をもたせながら左側へ移動していった。
「ん?誰もいないぞ!さては…」
この場はとにかく逃げるしかない。男とちょうど位置が逆転したこの隙に、俺はだっと駆け出した。
「ぬっ!貴様、そこにおったか!逃げても無駄だ、大人しく縄につけぃ!」
捕まるようなことをした覚えは無いのだが、気づかれてしまったからには必死で逃げるのみだ。
「んっ…?」
どうやら歩くことは普通に出来たようだが、勢いよく走り出そうとした瞬間に体が言うことを聞かなくなった。
先ほどとは比べものにならないほど体が浮いており、ことによっては飛んでいるようにすら見える状態だ。
「ぬぅ…貴様、そんな力を隠していたか!」
先ほどの男が気づかぬうちに目の前に迫って来ていた。
鮮やかな黒ともいえる髪色に、どんなタイプの女子にも受けがよさそうな甘いマスク。
―そして、その手に握っているのはまごう事なき日本刀だった。
…どういうわけかレプリカだが。
ついでに言えば着ているものまで赤の着流しだ。
…どう見ても合繊のコスプレ衣装だが。
なんというか、一気に緊張感が抜けてしまった。
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