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「かような力をどこで手に入れた!答えよ…答えねば、斬ることも辞さぬぞ!」
「待ってくれ。それ、斬れないだろ?」
体を浮かせたまま、俺は男の振り上げようとした刀を刃から受け止めた。
「俺だって、どうしてこうなったか全く分からないんだ。気づいたらここにいた。そんだけしか覚えてない」
「ああ…実は私もそうでな。次の舞台の稽古に励んでいたら、いつの間にやらこの荒野に寝転がっていたのだ」
「ってことは、ここがどこなのかあんたも分からないわけか」
「そうだな。こんな所でもし危険な目に遭ったらと思い、稽古場同様の緊張感でもって行動していたのだ」
「そしたら、俺がやってきたから舞台の役丸出しで追い払いにかかった…大体、そんなトコ?」
「…察するとおりだ。貴様、聡明なのだな」
単純な推理をしただけなのだが、男は素直に感心し、うんうんと頷いている。
「とりあえず、一緒に行動するか。戦えそうな格好をしているだけでも多少はマシになるかもしれないしな」
「極力、戦わなければならないような事態が起こらねば良いのだがな。折角だから、私のことは役の名で呼んでくれ。尾上松之介、略して尾上の松、とでも言っておこう」
「兵庫かどっかにそんな駅があったっけな。脚本家さん、テツだったりする?」
「テツという言葉が何を指しているのか、そもそも分からん」
「あ、そう。まあいいや、とりあえずどっちに行く?」
尾上の松に意見を求めると、彼は刀を地面に軽く突き立てて、ぱっと手を離した。
かたり、と地面に倒れた刀は俺達の斜め前を向いている。
尾上の松は、それと同じ方向を指差して、声を張り上げた。
「あちら側に向かうぞ!」
刀をとって鞘に収めるなり、尾上の松は俺を置いてすたすたと歩き出した。
少々せっかちな性格らしい。
俺はゆっくりとその後をついて歩き出した。
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