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暫く歩くと、尾上の松はさすがに先を歩きすぎたことに気づいたのか少しペースを落としてきた。
俺は少し早歩きし、彼の真後ろまで追いついた。
「遅いぞ。体を浮かせるような真似が出来るのに、かように足の力が無いのはなぜなのだ」
「足は元々遅いんだよ。ていうか、体を浮かせられることに対してもうちょっとマトモに突っ込んでくれ」
「板の上では何が起こっても動じてはいけない。体が浮くというような、非現実的なことが起こったとしてもな」
「さすが、役者さんだね。ここ舞台じゃないけどな」
「ならば、何だというのだ?異界、魔界、霊界…まさか、そのような答えでも出すつもりか?」
「そのどれかを疑いたくはなるよな」
あまり深く考えていない感じで返したものの、実際そうかもしれない可能性は充分にある。
何より、俺の体はこうして浮いているのだ。
現実の世界じゃ、まず起こらないことだろう。
「それにしてもなぁ…体が浮いててもいいコトなんかありゃしない。浮きすぎると走れないしさ」
なんとなく愚痴りたくなったので、ぼそりと言ってみた。
実際、この異世界?に来てから今まで、この力が役に立ったことは無い。
「発想の転換が重要だ。勢いをつけて浮かべば高く跳躍できるだろうし、空中で泳ぐこともできよう」
中身はかなり無理やりだが、説得力のある口調で尾上の松が答えてきた。
「なんなら、今実践してみたらどうだろう」
「ん?つまりこんな感じ?」
促されるように、ひざに力を入れてジャンプしてみる。
―軽く力を入れただけなのに、気が付けば尾上の松の身長分くらいに体が浮いていた。
無論、すぐにゆらゆらと地上スレスレのところまで降りてきてしまったが。
どうやら上空で動かないまま立ち位置をキープするのは無理らしい。
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